ちょっと黙って心臓
Cace.2:残業と秘め事
「……あっ……萩本くん、ダメ……」
「おおう……」
誰にも聞こえないように呟いて、私は目の前のドアにへばりついたまま、こくりと唾を飲み込んだ。
真夜中にほど近い、社内。あたりはほとんど照明が落とされて、廊下の灯りがかろうじて足元を照らしている。
そんな中、ようやく残業を終えてヘロヘロと4階の廊下を歩いていた私の耳に届いてきたのは、なんとも艶めかしい女性の声で。
好奇心に逆らえず、少しだけ開いた営業部のドアをそっと覗いてみると。そこではなんと、今まさに男女のあはんうふんなにゃんにゃんが始まろうとしていたのだ。
……あれって、秘書課の佐山さんと、営業二課の萩本さんだ。
あのふたり、付き合ってたんだ……ていうか、オフィスで何やってんのアノヒトたち。
そんなふうに心の中でつっこみながらも、私はふたりから視線を外せない。
だって、さあ……こんな、他人がいちゃいちゃしてるのとか、そうそう見る機会ないし。ぶっちゃけ、興味あるのよ。
ちょっとくらい、いいよね? どうせこの階には、きっともう私しか残ってないんだから。
佐山さんはデスクに腰かけるかたちで、その目の前に立つ萩本さんが、ほとんど覆い被さるようにして佐山さんの服を乱している。
絡まり合うふたりの方から、聞こえるいやらしい声。艶っぽい吐息。
……すっごい盛り上がってる。ここが会社だってこと、忘れてるんじゃないの。
いや、違うのか。ここが会社だからこそ、燃えちゃってるのかな。
冷静に分析していると、佐山さんが瞳をうるうるさせながら「萩本くん、もう……」とキスで濡れた赤いくちびるで呟いた。
こっから顔は良く見えないけれど、頷いた萩本さんが、スラックスのチャックに手をかける。
……おっと。これ以上はさすがに、まずいんじゃないの?
ようやく首をもたげた罪悪感に、そろそろとドアノブに手をかけようとした、そのとき。
「おおう……」
誰にも聞こえないように呟いて、私は目の前のドアにへばりついたまま、こくりと唾を飲み込んだ。
真夜中にほど近い、社内。あたりはほとんど照明が落とされて、廊下の灯りがかろうじて足元を照らしている。
そんな中、ようやく残業を終えてヘロヘロと4階の廊下を歩いていた私の耳に届いてきたのは、なんとも艶めかしい女性の声で。
好奇心に逆らえず、少しだけ開いた営業部のドアをそっと覗いてみると。そこではなんと、今まさに男女のあはんうふんなにゃんにゃんが始まろうとしていたのだ。
……あれって、秘書課の佐山さんと、営業二課の萩本さんだ。
あのふたり、付き合ってたんだ……ていうか、オフィスで何やってんのアノヒトたち。
そんなふうに心の中でつっこみながらも、私はふたりから視線を外せない。
だって、さあ……こんな、他人がいちゃいちゃしてるのとか、そうそう見る機会ないし。ぶっちゃけ、興味あるのよ。
ちょっとくらい、いいよね? どうせこの階には、きっともう私しか残ってないんだから。
佐山さんはデスクに腰かけるかたちで、その目の前に立つ萩本さんが、ほとんど覆い被さるようにして佐山さんの服を乱している。
絡まり合うふたりの方から、聞こえるいやらしい声。艶っぽい吐息。
……すっごい盛り上がってる。ここが会社だってこと、忘れてるんじゃないの。
いや、違うのか。ここが会社だからこそ、燃えちゃってるのかな。
冷静に分析していると、佐山さんが瞳をうるうるさせながら「萩本くん、もう……」とキスで濡れた赤いくちびるで呟いた。
こっから顔は良く見えないけれど、頷いた萩本さんが、スラックスのチャックに手をかける。
……おっと。これ以上はさすがに、まずいんじゃないの?
ようやく首をもたげた罪悪感に、そろそろとドアノブに手をかけようとした、そのとき。