ちょっと黙って心臓
「よし」

「(な、なにが『よし』……??!)」



私の疑問を置き去りにしたままたどり着いたのは、少し前に後にしたはずの総務部のオフィスだった。

慣れた様子で鍵を開け、堤課長は真っ直ぐ中に入っていく。

パタン、と背後でドアが閉まると、とたんに室内はまた真っ暗になった。



「か、課長、電気は……っ」

「……ああ。こっちだけつけとくか」



言いながら、課長が照明のスイッチを入口近くの2ヶ所だけつけて。

相変わらず左手を引っ張られるようにずかずか進んでいった先は、総務部内にある応接室だ。

応接室とはいっても、パーテーションで区切っただけの簡素なもの。向かい合うように置かれたふたつのソファーの間に、こげ茶色のローテーブルが置いてある。



「ひゃうっ」



するとそこで私は、軽ーい調子で堤課長に肩を押されて。

それなりに高級そうな革張りのソファーに、ぼすんと背中から沈んだ。

呆然として、目の前に立つ課長を見上げる。



「あ、あああああの、堤課長……?」



対する課長は、今まで見せたことないんじゃないかってくらいのにっこり笑顔を浮かべると。

そのまま、ソファーに仰向けになっている私に馬乗りになった。



「おまえのせいで煽られた。から、責任とって」

「はい!??」

「さっきの問いに答えるなら、俺は会社でシたことなんてないけど、」



なんだか黒い笑みを浮かべながら、課長が私の頬を撫でる。



「今、この状況に。自分でも思ってた以上に、興奮してる」

「~~~??!!」
< 9 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop