ポケットにキミの手を


 採用関係の仕事を任されているという彼女は、三月四月は忙しい。
平日はなかなか時間が合わず、俺としては欲求不満気味だ。

 そんな中、ようやくお互いに休みがとれた週末。いつものようにドライブデートをする約束をする。

待ち合わせは午後からで、俺は午前中、洗濯や掃除など所帯染みた事をした。彼女を連れてくるのにあまりに部屋が汚いのは気が引ける。洗濯物を干しておくのも見た目が良くないので、乾燥機におまかせだ。

一人暮らしが長いので、こういった作業はあまり苦にならない。ライフワークの一部として自然に体に染みついてしまっている。


 彼女を迎えに行き、ショッピングモールで買い物をし、食事は野菜不足を気にする彼女の為に鍋の専門店へと連れて行く。その後は夜景を楽しみ俺の家に帰る。

デートプランは大概いつも俺が決める。
今日の菫は疲れがたまっているのかあまり元気では無かったので、夜景スポットは一箇所だけで終わりにした。


「司さんの部屋っていつもキレイですね」


部屋に入り、彼女はキョロキョロと落ち着かなさげに周りを見る。


「そう? 週末にまとめてするだけだけど。たまたま菫が来る前にするからじゃない?」


三月はまだ寒い。帰宅と同時にエアコンは入れたけれど、まだ部屋が温まらないので上着は着たままだ。
座れば、とソファを指差すけど、菫は「お茶でもいれます」と電気ポットを抱えてキッチンとの間を行き来し始めた。

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