ポケットにキミの手を
「お仕事忙しいでしょう? 私たまにお洗濯とかしに来ましょうか? 合鍵も貰ったし」
最後に嬉しそうに頬を染められるのとかはかなりツボだ。自然に顔がにやけていそうで咳払いで誤魔化す。
「菫は家政婦じゃないんだから、そんなことまでしなくていいよ」
「そんな風には思ってませんけど。……ただ司さんの役に立ちたいなって」
あ、ヤバイ。
彼女の陰った顔を見て、焦る。
「役には立ってるよ。俺は君がそこにいるだけで楽しいし」
「私には分かりません。私何にもできないのに。これじゃ傍にいる意味無いみたいで」
「意味はあるって」
「私ばっかり喜ばせてもらっていて。なんだか……すごく役立たずの気分です」
電気ポットがお湯を湧かしている音が気になるくらいの沈黙が走った。
……なんでこじれ始めた?
今日は一日いい雰囲気で過ごしていたのに。
焦りはそのまま溜息となって溢れだして、彼女はそれに妙に萎縮する。
「……ごめんなさい。私、司さんを疲れさせてる」
「違うって」
徐々に沸き立つ苛立ちを隠せないまま、俺は彼女と向かい合う。
俯いた彼女を指で上に向かせると、いじけたような顔とご対面した。
「どうしたんだよ急に」
「別に」
「別にって顔してないだろ。誰かになんか言われた?」
菫の顔に驚きの色が浮かぶ。
どうやら本当に誰かに何か言われたらしい。