ポケットにキミの手を
「菫はそんなことでしか自分の価値を見いだせないの?」
「……ごめんなさい」
謝るなよ。
そんな顔をさせてるのが自分かと思うと、ますますイヤになってくる。
話しているうちに室内は温まり、着込んだ状態の襟ぐりにじわりと汗が浮かぶ。
俺は一度離れて、彼女の上着を脱がした後、自分も脱いでそこらに投げ捨てた。
するとふと、彼女の胸元に光るペリドットのネックレスが目についた。
俺が買ってあげたものだ。
あの日以来、彼女はいつもこれをつけていてくれた。アクセサリーは他にも持っているだろうに、服装の色に合わない時でも、必ず。小さなことだが、そこに菫の愛情が感じられて、俺は無性に嬉しかった。
癒やしのイメージのあるペリドットの緑色が、蛍光灯の明かりを反射してキラリと光る。
見ていると少し頭が冷えてきた。
俺にはどうでもいいと思うようなこと。
だけどそれに拘るのは、彼女にとって大切だからだ。
「……いや。俺もごめん。意地悪だった」
「司さん」
「菫といると俺は楽しいよ。俺の言葉をなんでも真剣に捉えて考えてくれるのも嬉しいし、君が笑うともっと嬉しい」
俺をじっと見つめる彼女の瞳から、滴が一筋流れていく。
「掃除も洗濯も料理もしてくれるのなら嬉しいよ。でも俺が嬉しいのは、仕事が少なくて楽になるからじゃない。君が俺のことを気遣ってくれることだ」
「司さん」
「仕事すれば満足みたいに言われるのは好きじゃない。俺を喜ばせたいって思ってくれるのが嬉しい」
「……ごめんなさい。私も、なんだか意地になってて」
「俺の言葉を信じなよ。他人の言葉に踊らされてても仕方ないでしょ」
「うん」
「俺を一番信頼して」