ポケットにキミの手を
菫の手がスッと俺の頬をかすめて、そのまま首にギュッと抱きつかれる。
小さな涙声が、耳元に響いた。
「司さん、……大好きです」
「俺もだよ」
華奢な体を抱きしめ返して、大切に腕の中に包む。
「大体、そんなことが気になるなんて、疲れてるんだよ、菫」
「でも、残業とかは司さんの方が多いじゃないですか」
「俺は慣れてるから。でも菫は今年になって急に忙しいだろ?」
「でも」
「でもじゃない。基準は人それぞれだ。人と比べるもんじゃないでしょ。疲れてるのを認めないと潰れることもあるよ」
今みたいにね。
そう言って頭を撫でると、菫の体から力が抜けていく。
「……ありがとう、司さん」
彼女はそっと体を離し、涙で濡れた笑顔を見せる。
俺は彼女と手を絡ませて、その指にそっとキスをした。
この指に、重なる指輪がほしい。俺と彼女だけの特別なもの。
互いの指に証がはまっていたならば、きっと菫も、俺がネックレスに感じるように安心してくれるんじゃないだろうか。
「仕事、いつ頃落ち着きそう?」
「そうですね。五月くらいには」
「そう。じゃあ、その頃お祝いしようか」
「本当ですか? 嬉しいです!」
押し付ける愛情は重たいか?
多分違う。
彼女は多分、与えるほど輝くタイプの人間だ。
変な自信が湧き出てきて、俺の頭の中ではこの先一年間のプランが沸き上がってくる。
「お湯、湧いたな。お茶飲もうか」
「私入れます」
「うん。頼むよ」
元気を取り戻した菫の動きを見ながら、あの指に収まる指輪のデザインについて、俺は考えを巡らせた。
【fin.】