ポケットにキミの手を


『負け犬ジュエリーなんです。だから……』

彼女がそういった時、胸の奥がチクリ痛んだ。

負け犬ジュエリーという言葉は初めて聞いたが、別れた彼に見せつけてやるためだけに買ったという彼女の言葉を聞いて、成程、言い得ていると納得する。

そしてふと、彼女に聞いてみたいと思った。

『婚約者に突き返された指輪も、負け犬ジュエリーかな』って。


あの時彼女に指輪を渡したのは、行き場のない婚約指輪の運命を、彼女に託してみたいと思ったからかも知れない。









 彼女と恋人という関係になってかれこれ三ヶ月余りがたつ。

季節は冬。イベントの多いこの時期、主要なものであるクリスマスや正月は、出来る限り仕事を抑えて二人で過ごした。
彼女が思っている以上に、俺は必死だ。
彼女にとって俺といることが当たり前になって欲しいし、俺のいない日々に物足りなさを感じて欲しい。


 そしてようやく普段の生活が戻りつつある一月半ば。正月休みのツケで、俺は忙しい日々を送っていた。


「司さん!」


いつも声が小さく、滑舌もそれほどはっきりもしていない彼女が、最近俺の名前だけは大きな声で呼ぶ。
それだけで心が弾む俺はどうかしているんだろうか。


「おはよう、菫」

「おはようございます。……あ、ごめんなさい。名前で読んじゃった」


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