ポケットにキミの手を


『ほら、あなたはそうやってすぐ怒るんだから。冗談じゃなく、良いお見合いの話もあるのよ?』

「あのさ。俺は結婚したい人がいるっていう電話をかけてるわけ。そこで見合いの話出されて怒らないほうがおかしいと思うけど?」


できるだけ不機嫌な声を出しているが、母親に効き目があるのかどうか。
お嬢様育ちは他人の空気を読むのが下手だ。あっけらかんとした口調で母親は再び口を開く。


『あらそう。まあ分かったわ。じゃあお食事だけはしましょうか。今度はどんなお嬢さん?』

「会社の子だよ。塚本菫さん。変なこと言うようならやっぱり会ってくれなくてもいい」


今度はって言われるほど、親に彼女を紹介したことはないだろう。
一回目が失敗だったからといって、何故二回目でこんな言われようをされなければならないのか。

ため息を吐き出したいのを堪えてそっけなく言うと、電話口の向こうで母親のため息の音が聞こえた。
互いに呆れているのはこっちだ、といった様相になっている。これは多分、どこまで行っても平行線だな。


『どうして私のことをそう邪険にするのかしらね。綾乃さんとお別れしたのが私のせいだと思っているの?』

「そんなことは思ってない」

『私はあなたの幸せを願っているのよ。大事な息子ですもの。そうでしょう?』

「はいはい」


くどくどと長くなる母親の話を流し聞きしながら、携帯を弄ぶ。

一緒に出かけた時に撮った菫の写真を画面に出し、不安そうな彼女の顔を思い浮かべた。

この母親と会った時、菫はどうなるだろう。

ただでさえ菫は人の言葉や悪意には反応するタイプなのにと思うと、ますます気が重くなってくる。
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