ポケットにキミの手を


 土曜の早朝、迎えにくると菫は一泊だというのに大きな鞄を抱えていた。


「そんなに荷物ある?」

「私、荷造りとか下手なんですよねぇ」


実家に行くのにこれでは、普段の旅行なんかはどうなるんだろう。
不思議に思いつつ荷物を後部座席に積み込む。俺のスーツも引っ掛けてあるので、後ろは完全に荷物席だ。

今日は旅行を楽しむということで、俺はポロシャツにスラックスというラフな格好、菫も動きやすさを考えてか珍しくパンツスタイルだった。
七分袖のカットソーは菫の体のラインを綺麗に見せていてとても似合っている。


「今日の服いいね。動きやすそうだし」

「ホントですか?」

「うん。色も良い。似合うよ」


首元には、キラリと光るペリドットのネックレス。

それを見ると結婚指輪を思い出す。菫からの意見も聞いて、デザインはほぼ完成した。
一応結婚への家族の了承を取り付けてから注文しようと、最終的なオーダーはまだしていない。

俺は一度決めるとすぐ動きたくなる方なので、早くあの指輪を彼女の指に収めたい。

そのためにも、明日の挨拶はしっかりしなければ。


 車は好調に走り出し、高速道に入る。背の高いガードレールに覆われて景色が遮断されたので、途端に話題が途切れていく。


「菫、CDいれてくれる?」

「はい。どれにします?」

「菫が聞いてみたいのでいいよ」


菫は、後部座席に置いておいたCDケースに手を伸ばし、一枚一枚をじっくり見て選んでいた。
菫はしばらく悩んだ後、オリンピックのテーマソングになっていたものをかけた。

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