ポケットにキミの手を
「今日の夜……」
「え?」
「俺、生姜焼きが食べたいな」
「えっ……」
一瞬動きを止めた彼女をじっと見つめる。
目をそらして悩んで、一度口を開けてまた閉じて、そして思い切ったように再び口を開く。
「わ、私、作りましょうか?」
そうやって、君が思い悩んでいる間、俺で頭が一杯なんだと思うと堪らなく嬉しくなる。
まるで子供の頃、好きな女の子にイジワルをしていたみたいな感覚だ。
「期待してる」
「じゃあ、私の家に来てください!」
「うん。じゃあ夜に」
それでも今は大人になったから、イジワルだけじゃない愛情表現も知っている。
彼女の困った顔が笑顔に変わったのを確認してから、俺は彼女がついてこられるペースにまで歩調を緩めた。