ポケットにキミの手を
何か言われちゃうんじゃないかって思うと確かに心が挫けそうにもなるんだけど、何があっても司さんを嫌いにはなれないなって思う。
だって、こんな風に私を大切にしてくれる人は今までにいなかった。他の誰といてもなくすことが出来なかった孤独感を、彼だけが拭い取ってくれた。
「じゃあ、服選びにいこうか」
司さんは立ち上がると車のキーを取り出す。
「服って?」
「文句とかつけられたくないんだよね。俺には普段の菫で十分綺麗だけど、うちの親はブランドとかそういうの結構目ざとく見るんだ。新調してあげる。おいで」
有無を言わさぬ勢いの司さんに連れられてきた先は、私が普段行かないような高級ブランドショップだ。
司さんが店員さんと交渉して、私はきせかえ人形のように次から次へと着替えさせられる。
「司さん、私こんなの似合わない」
「そんなことないよ。でももうちょっと清楚な色がいいな」
「じゃあこちらのお色なんていかがでしょう」
結局淡いグリーンのワンピーススーツを選んでくれたのだけど、いつもと桁が違うお値段に私はドキドキして落ち着かない。
「当日、美容院予約しようと思うんだけど」
「え?」
「化粧と髪を頼むから。菫の行きつけの方がいいかな」
「で、でも。そんなに」
ご両親に会うだけなのにそんなにするって、司さんの家はどれだけ裕福なのですか。
批難が顔に出ていたのだろう。
司さんが急にトーンダウンして目を伏せる。
「ごめん。驚くよな」
「嘘の私を見せても、いつかはバレます」
「でも、君に変なこと言われたくないんだ」
「私、大丈夫です」
胸を張って言ってみたけど、普段が普段なだけに信用はないらしい。
司さんは心配そうに私を見て、「……分かった」とだけ呟いた。