ポケットにキミの手を
*

 営業部は朝一が一番人が集まっている。
始業時間になると、部長は部内にいる人間を集めて軽い朝礼と情報交換を行う。

部長いわく、情報は共有してこそ生きてくるものなのだそうだ。それに関しては俺も同意する。同業種を受け持つ営業同士は特に、助けたり助けられたりすることは多い。


「里中、最近可愛い子とよく一緒にいるよな」


朝礼の後、そんな風に声をかけてきたのは一つ先輩の桐山(きりやま)さんだ。


「俺の彼女ですから、ちょっかい出さないでくださいね」

「へぇ、お前彼女出来たのか。良かったじゃん」


ぽん、と肩を叩かれる。
その手にこもっているのは優しさなのだろうが、同情されるのは嫌いだ。
菫を好きになるまで、こんな他愛もない会話がいちいち心に影を落としてくるのが本当に嫌だった。


「社内恋愛だろ? どの部署の子?」

「人事総務部ですよ」

「お前、人総って! いやぁ、刈谷さんを差し置いてやるねぇ、あはは」

「その言い方刈谷さんに失礼ですよ」

「でもお前も刈谷さんは選ばなかったわけじゃん」

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