ポケットにキミの手を


 それから一ヶ月後。
指輪が出来上がったという連絡と共に、デートへと誘われる。

それなりの格好をしてきて、と言われて一応ワンピースにはしたけれど大丈夫だっただろうか。
司さんも、スーツではないもののフォーマルにも対応できそうなジャケットを着ていた。


「今日はどこに行くんですか?」


私の問いに、彼は笑うだけだ。

車はどんどん都会から離れていき、田園風景も見えるようになっていく。
司さんはドライブが好きだけど、ここまで遠出になるのは珍しい。

車が止まったのは、小高い丘の上に建つ結婚式場だ。
自然が多く、教会、披露宴会場がある建物の他に遊歩道のようになっている一角もある。お休みである今日は結婚式が開かれているらしく、教会の前は賑やかだ。


「司さん、こんな日に見学ですか?」

「こんな日のほうが人が寄ってこなくていい」


司さんは堂々と遊歩道の方に入っていく。スタッフは今日の結婚式で忙しいのか、一度は寄ってきたものの「見学するだけ」という司さんの声に会釈をして下がっていった。

木々が立ち並ぶ素敵な空間だ。時折教会から聞こえる鐘の音がどこか静粛とした気分にしてくれる。
司さんは、海が見える位置で立ち止まると私の手をとった。
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