ポケットにキミの手を
「菫、コピー機の調子が悪いのよ。悪いんだけど業者に電話してくれる? 私は今日銀行行かなきゃならないから」
「あ、はい!」
いつものごとく、刈谷先輩から仕事を言いつけられる私。
それでも、最近の刈谷先輩は昔みたいにイヤな視線を投げてくるわけではないので、やりにくいということはない。
「ええと、業者さんの電話番号は」
総務の書類がまとめられている棚から、社内備品の発注ファイルを取り出す。
たしかここにコピー機関連の書類もあったはず。
コピー機は定期的にメンテナンスに来てもらえるのでそれほど故障が多いわけではないのだけれどなぁと思いつつ、電話をかける。
午後に行きますという返事を貰って、私は自分の仕事に戻った。
今年も舞波さんと一緒に採用の担当に入れてもらったので、それなりに忙しく過ごしているのだ。
デスクに戻ると脇に置いておいた携帯がピカピカ光っていた。
【昼に戻れるんだけど、一緒に飯食べない?】
司さんからのメールだ。
社内恋愛は恥ずかしいことも多いけど、こうしたちょっとした時間でも一緒に過ごせるのが嬉しい。
【行きます。何処で待っていればいいですか】
すぐにロビーを指定した返事が来る。
結婚をすることを上司にだけ内々に報告した後から、司さんはこうした誘いをよくかけてくるようになった。
こうして段々公認になっていくのかな、なんて思うと顔がほころんだ。