ポケットにキミの手を
*
「ちょっと混んでるな。時間かかる?」
「んー、そうね。カウンターでいいならすぐお通しできますけど」
美亜さんが困ったように眉を寄せる。
やってきたのは【The Blue Bird】
司さんが学生時代から贔屓にしているというイタリアンのお店だ。
その昔、美亜さんと何事かあったこともあるらしいけど、深く追求しないことにしている。
そんな心配しなくてもいいほど、二人はあっけらかんとしているし。
「菫、少し午後遅れても平気?」
「ごめんなさい。午後からコピー機の業者さんが来るので十三時には戻らないといけないんです」
「そうか。じゃあ仕方ない。カウンターでいいよ」
二つ開いたカウンター席に腰をおろし、おすすめのランチを頼んで待つ。
「今度の土曜、どこか行こうか」
「あ、私、買い物に行きたいんです」
「何欲しいの? 車だそうか」
「いつも仲いいわねー。はい、お待たせしました。オススメパスタランチです。どうぞごゆっくり」
美亜さんが運んできた料理に舌鼓をうっていると、隣の席が入れ替わった。
「……あれ、司くん?」
聞き慣れた名前が呼ばれて、私も思わずその人を見上げた。
私より一回りくらい年上っぽい男の人だ。黒髪の中に時たま白髪が混ざっている。
穏やかそうな相貌を裏切らない低いけれど温かみのある声。
「ちょっと混んでるな。時間かかる?」
「んー、そうね。カウンターでいいならすぐお通しできますけど」
美亜さんが困ったように眉を寄せる。
やってきたのは【The Blue Bird】
司さんが学生時代から贔屓にしているというイタリアンのお店だ。
その昔、美亜さんと何事かあったこともあるらしいけど、深く追求しないことにしている。
そんな心配しなくてもいいほど、二人はあっけらかんとしているし。
「菫、少し午後遅れても平気?」
「ごめんなさい。午後からコピー機の業者さんが来るので十三時には戻らないといけないんです」
「そうか。じゃあ仕方ない。カウンターでいいよ」
二つ開いたカウンター席に腰をおろし、おすすめのランチを頼んで待つ。
「今度の土曜、どこか行こうか」
「あ、私、買い物に行きたいんです」
「何欲しいの? 車だそうか」
「いつも仲いいわねー。はい、お待たせしました。オススメパスタランチです。どうぞごゆっくり」
美亜さんが運んできた料理に舌鼓をうっていると、隣の席が入れ替わった。
「……あれ、司くん?」
聞き慣れた名前が呼ばれて、私も思わずその人を見上げた。
私より一回りくらい年上っぽい男の人だ。黒髪の中に時たま白髪が混ざっている。
穏やかそうな相貌を裏切らない低いけれど温かみのある声。