ポケットにキミの手を



「ちょっと混んでるな。時間かかる?」

「んー、そうね。カウンターでいいならすぐお通しできますけど」


美亜さんが困ったように眉を寄せる。

やってきたのは【The Blue Bird】
司さんが学生時代から贔屓にしているというイタリアンのお店だ。

その昔、美亜さんと何事かあったこともあるらしいけど、深く追求しないことにしている。
そんな心配しなくてもいいほど、二人はあっけらかんとしているし。


「菫、少し午後遅れても平気?」

「ごめんなさい。午後からコピー機の業者さんが来るので十三時には戻らないといけないんです」

「そうか。じゃあ仕方ない。カウンターでいいよ」


二つ開いたカウンター席に腰をおろし、おすすめのランチを頼んで待つ。


「今度の土曜、どこか行こうか」

「あ、私、買い物に行きたいんです」

「何欲しいの? 車だそうか」

「いつも仲いいわねー。はい、お待たせしました。オススメパスタランチです。どうぞごゆっくり」


美亜さんが運んできた料理に舌鼓をうっていると、隣の席が入れ替わった。


「……あれ、司くん?」

聞き慣れた名前が呼ばれて、私も思わずその人を見上げた。

私より一回りくらい年上っぽい男の人だ。黒髪の中に時たま白髪が混ざっている。
穏やかそうな相貌を裏切らない低いけれど温かみのある声。

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