ポケットにキミの手を


刈谷さんの営業部での評判は微妙だ。

あからさまに俺に気があったから、というのもあるのだけれど。
いちいち猫なで声を出して近寄ってくるところとか、無駄に化粧ばっちりでくるところなんかは、営業部では一種の名物化していた。

元々が美人なんだから、普通に控えめにしていればモテるだろうと思うのだが、彼女が男とうまくいかないのはひとえにあのアクの強い性格のせいだろう。


「名前はなんて言うんだ?」

「教えません。桐山さん、余計なちょっかい出しそうですから」

「出さないよ。いいから教えろって」

「嫌です」

「営業部は情報共有が大事だろ!」

「それをこれとは違います」


俺と桐山さんの掛け合いを、数名が笑いながら茶化して、会社を出て行く。


「ほら、俺ももう出るんでまた今度」

「ちっ、逃げたな」


何とでも言うといい。
人に見せれるほど、俺はまだ菫を堪能しきっていない。

今はまだ、俺だけを見て、俺の為に迷って、困って、頭をいっぱいにしていて欲しい。

意地悪なことを仕掛けながら、彼女を喜ばすサプライズを考える。

それが今、俺の一番の楽しみだ。



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