ポケットにキミの手を


 西崎さんが社内に顔を出したのは、十三時を少し過ぎた頃だ。


「よろしくお願いします。このマシンなんですけど。紙詰まりが頻繁で、印刷にスジも載るんです」

「はいはい。あー、ここに入れている中じゃ一番旧式のものですもんね。ローラーかな……」


しばらくお時間頂きます、というので終わったら声をかけてもらうことにしてお任せすることにした。
その間に、私は雑務を片付ける。


三十分位たって、西崎さんが呼びにくる。


「ローラーが劣化していたので交換しました。印刷のスジは、読み取り機の汚れですね。こちらは使っていると自然に出てしまうので、できれば定期的にこの辺りを拭いてもらえるといいんですけど」

「はい、分かりました」

「ではサインをお願いできますか?」


作業内容を書いた書類にサインをして、お礼を言う。
見送りがてら廊下まで出ると、彼は緊張を解いたように笑った。


「あ、じゃあ」

「はい。ありがとうございました」


司さんとのことが気になるけど、改めて聞くのもはばかられる。
結局頭を下げて見送って、でもやっぱり気になって。


「……あの」


私が声をかけたのと、彼が振り向くのは同時だった。
思わず顔を見合わせて、吹き出してしまう。

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