ポケットにキミの手を



【十九時まで何処かで時間潰せる?】


司さんからのメールは定時直前に入った。


【司さんが遅くなるなら、家で御飯作って待ってますけど】

【イヤ、待ってて。今日は外で食べよう】


彼の体を心配して言ったつもりだったけど、返答は頑ななものだった。

仕方なく、時間を潰すためにデパートの文具コーナーにいく。
私は文具が好きで、それほど使いもしないのに集めている。
重さとか細さとかがしっくり来るボールペンなんかを見つけた時には心が踊るようだ。


【今何処?】


やがて司さんからメールが入る。時刻は十九時の十五分前。
頑張って早めに上がってくれたみたい。

場所を教えるとすぐにやってくる。
背が高くて肩幅のある彼は、凄く存在感があるから、遠くからでもすぐに分かる。


「ここです。司さん」

「待たせたね。何見てたの」

「文具です。ボールペンとか付箋とか、小さいながらも色々な機能があったりして見てると楽しいんです」

「へぇ。それは気にしたこと無かったな。さすが人総」

「社内仕事が多いからですよ」


さり気なく褒めてもらえて、気分が高揚してきた。

良かった。
なんとなく司さんも、いつも通りに戻ったみたい。
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