ポケットにキミの手を


 狭い私のアパートに、熱い吐息が充満する。
今日の彼は情熱的であり扇情的でもあり、そして少し強引だった。

彼と私の境目が無くなるのと同時に、感覚が混濁して現実とうつつの境目も曖昧になる。
時折彼が強く抱きしめてくることでかろうじて意識が現実に浮上してくる感じ。


「ん、司さん……、私、もうダメ」

「駄目だよ。まだ。今日は甘やかしてくれるって言ったじゃん」

「でも、……っあ」


耳に入ってくる言葉で、自分で赤面してしまう。
“ダメ”とか“でも”とか、言葉ではそう言っているのに出てくる声は発情期の猫みたいな甘えた声だ。


「欲しいって言ってよ、もっと」

「や……」

「たまには甘えていいんでしょ」


色気を帯びた彼の声に、背筋からゾクゾクと這い上がってくる欲情。

本当はずっと、こんなふうに誰かから一心に愛されたいと思ってたんだと、気づいた途端に泣きたくなる。


「つ、かさ、さん」

「……なんで泣いてる? 痛い?」


顔を覗きこんでくる彼の首に手をかけて、自分からキスをしに行った。


「嬉しいから泣いてるの」


彼の動きが一瞬止まる。
そして、ニヤリと笑うと再び主導権を握ったように、私をシーツに縫い止めた。


「相変わらず、凄い殺し文句持ってるよね」

「……んんっ」


反論するまもなくキスをされて、彼の指先が私の体から快感を引き出していく。


「今日は泣いてもやめないから」


これが彼の甘え方なら、私体力が持つかしら。
なんて、心配になる夜だった。






【Fin.】

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