りんどう珈琲丸
「メール送ってもいいですか?」
「もちろん。待ってるわ」
電車がホームに滑り込んでくる。12月の午後の上り電車には、ほとんど人が乗っていない。竹岡の駅で電車を降りる人はひとりもいなかった。美篶さんは電車に乗ると振り向いてわたしに笑いかけてくれる。
「柊ちゃん、ありがとう。話せて楽しかったわ」
「美篶さん、また竹岡に来てください。こんどはお店で待ってます」
「うん。またね」
そう言って美篶さんは胸の辺りで小さく手を振る。大げさな音をたてて、ドアが閉じると、電車はゆっくりと動き出す。わたしはそれが線路の向こうに見えなくなるまでずっと見送る。
わたしはそれから、お店に立ちながらいつも心のどこかで、美篶さんのことを待っていた。でもそれは今までに感じたことのないような複雑な気持ちだった。だってわたしは学校で授業を受けているときとか、お昼休みとか、わたしがお店にいないときには、りんどう珈琲に美篶さんが来ないことを無意識に望んでいるような気がしたからだ。わたしはそんなふうに思う自分のことをとても狡く感じた。でも美篶さんはどうしてマスターに会いにきたのに、マスターに会わずに帰ってしまったのだろう。美篶さんはマスターのことが好きなんだろうか? そのことを考えると、わたしは少し胸が苦しくなった。あたりまえだけど、マスターはわたしのものじゃない。
それでもわたしは美篶さんのことを待っていた。きっとわたしは美篶さんのことをもっと知りたいんだと思う。わたしが美篶さんだったら、絶対にマスターに会いに行くと思うもの。
「ねえマスター、あれから高橋さん、お店に来た?」
「来ないよ」
「どうしてだろうね?」
「さあな。なんでそんなこと気にするんだ?」
「うん。別に…」
「もちろん。待ってるわ」
電車がホームに滑り込んでくる。12月の午後の上り電車には、ほとんど人が乗っていない。竹岡の駅で電車を降りる人はひとりもいなかった。美篶さんは電車に乗ると振り向いてわたしに笑いかけてくれる。
「柊ちゃん、ありがとう。話せて楽しかったわ」
「美篶さん、また竹岡に来てください。こんどはお店で待ってます」
「うん。またね」
そう言って美篶さんは胸の辺りで小さく手を振る。大げさな音をたてて、ドアが閉じると、電車はゆっくりと動き出す。わたしはそれが線路の向こうに見えなくなるまでずっと見送る。
わたしはそれから、お店に立ちながらいつも心のどこかで、美篶さんのことを待っていた。でもそれは今までに感じたことのないような複雑な気持ちだった。だってわたしは学校で授業を受けているときとか、お昼休みとか、わたしがお店にいないときには、りんどう珈琲に美篶さんが来ないことを無意識に望んでいるような気がしたからだ。わたしはそんなふうに思う自分のことをとても狡く感じた。でも美篶さんはどうしてマスターに会いにきたのに、マスターに会わずに帰ってしまったのだろう。美篶さんはマスターのことが好きなんだろうか? そのことを考えると、わたしは少し胸が苦しくなった。あたりまえだけど、マスターはわたしのものじゃない。
それでもわたしは美篶さんのことを待っていた。きっとわたしは美篶さんのことをもっと知りたいんだと思う。わたしが美篶さんだったら、絶対にマスターに会いに行くと思うもの。
「ねえマスター、あれから高橋さん、お店に来た?」
「来ないよ」
「どうしてだろうね?」
「さあな。なんでそんなこと気にするんだ?」
「うん。別に…」