りんどう珈琲丸
「ねえマスター」
「うん?」
「今度野球観に行ってもいい?」
「別にいいけど、朝早いぞ」
「うん。そんなのぜんぜん大丈夫」
窓の外は日曜日の柔らかな太陽が路地を照らしていた。わたしはそんなのんびりした細い道を眺めながら、モグワイという変人たちが鳴らし続けている音の虜になっていくようだった。それはぼんやり聴いているとただの歌のない音楽なんだけど、耳を澄まして注意深く聴くと、なんだか言葉のように聴こえてきた。歌詞はないのに、言葉より饒舌な音楽。曲が進むにつれて、深い森の奥に迷い込んだような気持ちになってくる。
からんからん。
ドアが開いてお客さんが入ってきた。
「あぁ山下さん、下村さん」
「やあマスター。今朝はおつかれさま」
「おつかれさまでした。どうしたんですか? 2人揃って」
「ああ。暇だからさ、下村さんとたまにはビールでも飲もうと思って。今日の反省会」
山下さんと下村さんはマスターを草野球チームに誘った人で、ときどきお店に珈琲やビールを飲みに来てくれる。2人とももう50歳近い。でも野球をやっているだけあって実際の年齢よりもぜんぜん若く見える。下村さんは隣の町で自動車工場を経営していて、いつ会っても真っ黒に日焼けしている。体格も筋肉質で、冬でもTシャツに上着だけだ。一方の山下さんは建築の仕事で図面を引いたりする仕事をしているみたいで、ひょろっとしていて色が白い。
2人はカウンターに座るとビールで乾杯する。日曜日の午後1時。ビールで乾杯する中年のおじさんたち。マスターはそれを嬉しそうに見ている。店内は暖房がかかっていて暖かくて、外は風のない冬の晴れた日で、そこには悪い予感のかけらもない。冬の日曜日ってどうしてこんなにきれいなんだろうと思う。
「結局さ、今日も9対0だろ? 先週は確か4対0だっけ? まったく俺たち弱いな。もうどれくらい勝ってないだろうな」
下村さんが顔をほんのり赤らめて言う。
「まあしょうがねーだろ。3安打じゃ勝てねーよ。しかもそのうち2本は吉川だろ。あとは豊平さんのまぐれのポテンヒット」
山下さんが答える。負けてばかりなのにとても楽しそうだ。
「ポテンヒットってなんですか?」
わたしは山下さんの前のカウンターに2本目のビールを置いて聞く。
「うん?」
「今度野球観に行ってもいい?」
「別にいいけど、朝早いぞ」
「うん。そんなのぜんぜん大丈夫」
窓の外は日曜日の柔らかな太陽が路地を照らしていた。わたしはそんなのんびりした細い道を眺めながら、モグワイという変人たちが鳴らし続けている音の虜になっていくようだった。それはぼんやり聴いているとただの歌のない音楽なんだけど、耳を澄まして注意深く聴くと、なんだか言葉のように聴こえてきた。歌詞はないのに、言葉より饒舌な音楽。曲が進むにつれて、深い森の奥に迷い込んだような気持ちになってくる。
からんからん。
ドアが開いてお客さんが入ってきた。
「あぁ山下さん、下村さん」
「やあマスター。今朝はおつかれさま」
「おつかれさまでした。どうしたんですか? 2人揃って」
「ああ。暇だからさ、下村さんとたまにはビールでも飲もうと思って。今日の反省会」
山下さんと下村さんはマスターを草野球チームに誘った人で、ときどきお店に珈琲やビールを飲みに来てくれる。2人とももう50歳近い。でも野球をやっているだけあって実際の年齢よりもぜんぜん若く見える。下村さんは隣の町で自動車工場を経営していて、いつ会っても真っ黒に日焼けしている。体格も筋肉質で、冬でもTシャツに上着だけだ。一方の山下さんは建築の仕事で図面を引いたりする仕事をしているみたいで、ひょろっとしていて色が白い。
2人はカウンターに座るとビールで乾杯する。日曜日の午後1時。ビールで乾杯する中年のおじさんたち。マスターはそれを嬉しそうに見ている。店内は暖房がかかっていて暖かくて、外は風のない冬の晴れた日で、そこには悪い予感のかけらもない。冬の日曜日ってどうしてこんなにきれいなんだろうと思う。
「結局さ、今日も9対0だろ? 先週は確か4対0だっけ? まったく俺たち弱いな。もうどれくらい勝ってないだろうな」
下村さんが顔をほんのり赤らめて言う。
「まあしょうがねーだろ。3安打じゃ勝てねーよ。しかもそのうち2本は吉川だろ。あとは豊平さんのまぐれのポテンヒット」
山下さんが答える。負けてばかりなのにとても楽しそうだ。
「ポテンヒットってなんですか?」
わたしは山下さんの前のカウンターに2本目のビールを置いて聞く。