りんどう珈琲丸
きっと吉川さんは東京でたくさんのいい営業成績をあげていた。今よりもたくさんのお金を稼いでいたんだと思う。そういうことを考えると、わたしはもっといろいろなことがわからなくなる。働くことで、みんな生きることが少しだけ窮屈になってしまうのだとしたら、それはとっても寂しいことのような気がする。もちろんわたしはまだ働いていないから、そんなことは言えないのだけど。
たぶんわたしはきっと、吉川さんがひきこもっていたということがまだうまく飲み込めていないんだと思う。この町で生まれて、育って、野球が上手で、いい大学に行って、いい会社に就職した吉川さん。でもそれはもしかしたら吉川さんという1人の人の世界においては、とても悲しいことだったのかもしれない。わたしはそういうことが想像すらできない自分のことがやっぱり嫌なんだ。たぶんそれは、生きることの意味みたいなものを、わたしが全然わからないからだと思う。それからそれを大きく決定づける、働くということの意味も。中郷さんをみても、吉川さんをみても、下村さんも山下さんも、みんな働いている。みんな生きている。でもその理由を、自分がちゃんと言葉に変えられないことが、とても不安なんだと思う。だからわたしは今日みたいに、吉川さんに会いにきてしまうんだと思う。吉川さんが考えていることを、吉川さんを引きこもらせたものの正体を、とても知りたいんだと思う。
日曜日の朝早く起きて、わたしは竹岡の駅でマスターを待つ。今日は草野球の大会だ。冬の朝6時はまだ暗くて、指先まで冷たくなるような寒さだ。毎週こんな時間から野球をしている人がいることに、なんだか不思議な気持ちになる。もちろん、朝6時に竹岡の駅にいる人なんて、わたししかいない。
マスターの車のエコじゃないエンジン音が近づいてくる。それは遠くからでもわかる。ほどなくすると坂の下からマスターの赤い車が見えてくる。助手席には吉川さんが乗っている。
「マスター、吉川さんおはよう」
「おはようひい。ほんとに来るんだな」
「来るよ。だってわたしとっても楽しみにしてたんだよ」
たぶんわたしはきっと、吉川さんがひきこもっていたということがまだうまく飲み込めていないんだと思う。この町で生まれて、育って、野球が上手で、いい大学に行って、いい会社に就職した吉川さん。でもそれはもしかしたら吉川さんという1人の人の世界においては、とても悲しいことだったのかもしれない。わたしはそういうことが想像すらできない自分のことがやっぱり嫌なんだ。たぶんそれは、生きることの意味みたいなものを、わたしが全然わからないからだと思う。それからそれを大きく決定づける、働くということの意味も。中郷さんをみても、吉川さんをみても、下村さんも山下さんも、みんな働いている。みんな生きている。でもその理由を、自分がちゃんと言葉に変えられないことが、とても不安なんだと思う。だからわたしは今日みたいに、吉川さんに会いにきてしまうんだと思う。吉川さんが考えていることを、吉川さんを引きこもらせたものの正体を、とても知りたいんだと思う。
日曜日の朝早く起きて、わたしは竹岡の駅でマスターを待つ。今日は草野球の大会だ。冬の朝6時はまだ暗くて、指先まで冷たくなるような寒さだ。毎週こんな時間から野球をしている人がいることに、なんだか不思議な気持ちになる。もちろん、朝6時に竹岡の駅にいる人なんて、わたししかいない。
マスターの車のエコじゃないエンジン音が近づいてくる。それは遠くからでもわかる。ほどなくすると坂の下からマスターの赤い車が見えてくる。助手席には吉川さんが乗っている。
「マスター、吉川さんおはよう」
「おはようひい。ほんとに来るんだな」
「来るよ。だってわたしとっても楽しみにしてたんだよ」