りんどう珈琲丸
「ああ。ものすごく速いな」
「マスター打てる?」
「いや、たぶん打てない」
「ねえマスター、吉川さんがいちばん打てるんだったら、どうして吉川さんが4番じゃないの?」
「いや、それ以前に吉川にいちばん多く打順が回ってくるように、あいつはいつも1番なんだ」
「へえ。でも三振しちゃったね」
「ああ。珍しい」
マスターのチームのピッチャーもそんなにボールは速くないけど、意外と相手の打線を抑えていた。ヒットは打たれるものの、点を取られていない。わたしはライトを守っているマスターのところにボールが飛びませんように!と祈りながら、いつのまにかゲームに熱中している。
吉川さんは2打席目も三振だった。こんどは大きく曲がる変化球だった。それは素人のわたしがベンチから見ても、大きく浮き上がって落ちてくるようなボールだった。それでも吉川さんは1打席目と同じで表情を変えずにベンチに戻ってきた。ベンチのおじさんたちがみんなざわついた。どうやら吉川さんが2打席連続で三振するのはほとんどないことのようだった。吉川さんが打てないピッチャーを、ほかのメンバーも打てるはずはなかった。マスターなんて3球で三振だったし、他の人もほとんど前にボールが飛ばなかった。まだ誰もヒットを打っていない。それどころか誰も塁に出ていない。でもこっちのピッチャーも踏ん張って、6回の表を終わって1失点。1対0でゲームは淡々と過ぎていった。
6回の裏になった。7番バッターも8番バッターもあっけなく三振だった。そして次は9番のマスターの打順だ。バッターボックスに向かうマスターを、次の打席の準備をしている吉川さんが呼び止める。そしてマスターの近くにゆっくり歩いていって、マスターの耳元でひとことなにか話しかける。マスターは吉川さんの顔を見てうなずく。吉川さんがマスターに笑いかける。
最初のボールはものすごい速いボール。マスターはそれを見送った。そして次は変化球。マスターはこれも見送った。振らなきゃ当たらないのに。わたしはそう思う。ベンチのみんなもマスターに応援なのかヤジなのかわからない言葉をかける。みんな楽しそうだけど、ちょっとだけ本気だ。
「マスター打てる?」
「いや、たぶん打てない」
「ねえマスター、吉川さんがいちばん打てるんだったら、どうして吉川さんが4番じゃないの?」
「いや、それ以前に吉川にいちばん多く打順が回ってくるように、あいつはいつも1番なんだ」
「へえ。でも三振しちゃったね」
「ああ。珍しい」
マスターのチームのピッチャーもそんなにボールは速くないけど、意外と相手の打線を抑えていた。ヒットは打たれるものの、点を取られていない。わたしはライトを守っているマスターのところにボールが飛びませんように!と祈りながら、いつのまにかゲームに熱中している。
吉川さんは2打席目も三振だった。こんどは大きく曲がる変化球だった。それは素人のわたしがベンチから見ても、大きく浮き上がって落ちてくるようなボールだった。それでも吉川さんは1打席目と同じで表情を変えずにベンチに戻ってきた。ベンチのおじさんたちがみんなざわついた。どうやら吉川さんが2打席連続で三振するのはほとんどないことのようだった。吉川さんが打てないピッチャーを、ほかのメンバーも打てるはずはなかった。マスターなんて3球で三振だったし、他の人もほとんど前にボールが飛ばなかった。まだ誰もヒットを打っていない。それどころか誰も塁に出ていない。でもこっちのピッチャーも踏ん張って、6回の表を終わって1失点。1対0でゲームは淡々と過ぎていった。
6回の裏になった。7番バッターも8番バッターもあっけなく三振だった。そして次は9番のマスターの打順だ。バッターボックスに向かうマスターを、次の打席の準備をしている吉川さんが呼び止める。そしてマスターの近くにゆっくり歩いていって、マスターの耳元でひとことなにか話しかける。マスターは吉川さんの顔を見てうなずく。吉川さんがマスターに笑いかける。
最初のボールはものすごい速いボール。マスターはそれを見送った。そして次は変化球。マスターはこれも見送った。振らなきゃ当たらないのに。わたしはそう思う。ベンチのみんなもマスターに応援なのかヤジなのかわからない言葉をかける。みんな楽しそうだけど、ちょっとだけ本気だ。