天使の贈り物 



おいおいっ。





溜息を小さく吐き出して、
正面を見つめると、
困ったような顔をして

「あっ、あの……。
 私……」

っと立ち尽くす彩巴という名の少女。




「こんばんは。
 成実ちゃんか名前は聞いてる。

 彩巴ちゃんって呼んでもいいのかな?」




俺が座席に座るように促して、
話しかけると、彩巴ちゃんは静かに着席した。



「はいっ、メニュー」

「二人でもう少し食べようか?
 請求は、成実ちゃんにまわしてさ」




何気ない会話を交わして、
次々と食べ物を注文しながら
胃袋の中におさめて行った。



彩巴ちゃんは、
レモンスカッシュが好きなのか、
何度も注文しながら、
から揚げや、揚げだし豆腐を摘まんでいく。

その隣、俺はウィスキーを
飲み干していく。



会話らしい会話なんて、
続かない。


沈黙が続く空間。





お酒を飲みながら、
俺が思い続ける時間は、
晴貴や美空たちが居るあの時間だから。






「あっ、あの……」


どれくらい時間が
経っていたのだろうか?


ボトルで飲み続けていた
ウィスキーが空っぽになった頃
彩巴ちゃんの声が、
俺の方へと届いた。





「ごめん……。
 彩巴ちゃん、一人にしちゃったね」

「いえっ。
 私はテーブルのおかず、
 美味しくいただいてましたから」







そんな会話を続けながらも、
また俺の意志とは関係なく、
俺の指先は震え始める。




そんな震えを抑えるように
必死に逆側の手を添える。





「あっ、あの……。
 手、大丈夫ですか?

 薬っとかあるなら、
 私お水貰ってきますよ」




彩巴ちゃんはそう言うと、
心配したように、
椅子から立ち上がった。



「ごめん。
 心配かけさせたみたいで……。

 心因性の発作なんだ。
 こうしてたら……
 時期に落ち着くから」



そんな言葉を反射的に返しながらも、
俺は手の震えを少しでも早く止めたくて
何度も何度も心の中で『とまれ』と念じ続ける。


ふいに彼女の手がゆっくりと伸びて来て、
固く握り込んだ俺の手を開かせて、
自らの手をゆっくりと重ねた。



突然の行動に、
俺は驚きを隠せないまま
ただ俺自身の手を彼女に預ける。

彼女の温かい手が
俺の緊張を解していくように
ゆっくりと血流が動き出すのを感じる。


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