天使の贈り物 



「んじゃ、奏介も来たし……
 彩巴、練習の成果見せつけてやんな」


悠生の店に集まった途端、
成実が、彩巴の背中を押す。


俺以外のメンバーが
それぞれのポジションへとついて、
各自の相棒をチューニングして行く。


「煌太、じゃーやっちゃって」


煌貴を抱きながら、
パワフルな成実は、
テキパキと指示を出していく。


煌太のスティックが打ち鳴らされて、
一気にそれぞれの楽器が絡み合う。


溢れだす洪水に、
必死に飲み込まれないように
歌う彩巴。



美空の声質とは異なる、
優しい歌声。


そんな彩巴の声で
俺自身を満たしながら、
俺の相棒をゆっくりと構える。





翔琉のサウンドと悠生のサウンドがこの音なら、
俺がバッキングを重ねるのは、
このコード進行だな。



脳内に溢れ出る音を
ゆっくりと弦とフレットを駆使して
変化させていく。




暫くすると、彩巴の歌声が消えて
翔琉のギターがハモるように
俺のギターへと重なった。


その途端、筋肉が硬直する感覚と共に
指先が震えだして、
ギターをつま弾くのをやめた。


「奏介っ!!」

翔琉がすぐに演奏を止めて、
俺の指先を解していく。



「…………」



翔琉が処置をしてくれている間、
ただ黙って、
その時間と向き合うことしか出来なかった。

演奏したくても、
最後まで奏できれない現実。

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