天使の贈り物
1.気になるヒト
目を閉じれば
今も鮮明に浮かび上がる記憶。
震える記憶に怯えながら
意のままにならない
体をぎゅっと抱きしめて……
やり過ごす時間。
あの日から……半年。
新しい場所で、
新しい未来を
精一杯踏み出した。
私、藤堂彩巴
(とうどう いろは)。
今年の春、高校を卒業して
半年が過ぎたところ。
高校の卒業試験の初日、
早朝に起こった大震災。
あの日から……
全ては始まり、
あの日から……
今に繋がってる。
それはわかってるのに……
その出来事が
今も深く傷を残す。
そして……
それが、私のこの先の未来まで
大きく影を落としていくなんて
この時の私には知るよしもなかった。
あの震災の日……
私は最愛の家族を失った。
家族を失った私は、
その場に留まる理由もなくて
辛いその場所から少しでも離れたくて、
住み慣れたその町を離れた。
県外の大学に推薦で
進学の決まっていた私は、
そのまま大学の近くで
住み込みで働かせて貰いながら
生活を始めた。
今も余震の度に
震え続ける体を
必死に抱きしめながら
灯りの消すことが出来ない部屋で
過ごし続ける。
大学と居酒屋でのバイトを終えて、
住ませて貰っている
自室へと戻ってきて、
家族の名前だけを記した
フレームの前で手をあわせる。
「ただいま。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん」
ゆっくりと手をあわせて、
台所へと向かうと、冷蔵庫からお茶を取り出して
一気に喉に流し込んだ。