天使の贈り物
「……成実……。
あれ……」
小さく呟いた私に、
成実はにっこり笑いながら、
その写真立てに手を伸ばして持ち上げると
私の方へと近づいてきて、
ベッドに座った。
「コイツ……。
晴貴(はるき)って言うんだ。
私の彼氏……だった人……」
語尾を小さくしながら、
静かに紡ぐ成実は、
いつもの成実と違って見えて……
同じ匂いを感じた。
「成実……
今、だったって言ったよね……。
だったってことは……
もしかして……」
もしかして……
その晴貴さんは、
もうこの世には居ないの?
別れたとかそんなんじゃなくて、
この世には居ない気がした。
同じ匂いを感じたから……。
「うん……。
晴貴は、もう居ないよ。
冬の地震の時さ、
アイツ、実家帰ったんだ。
バンドのプロデビューが決まったから
両親を説得したいって言ってさ。
でも……居なくなっちゃった。
あの直下型の地震、
晴貴の実家、
べっしゃんこにしちゃった。
悠生とか、煌太、翔琉に奏介。
地震知ってから、
五人で車飛ばして行ったのに
道が寸断されて、
それ以上先には行けなくて。
回り道になったんだ。
その坂を下りきれたら、
すぐそこだったのに……
それが出来なくて、
わざわざ漁師さんに船だして貰って
海から上陸して駆けつけた。
でも……消防も、警察も
晴貴、助けてくれなかった。
消防は消火活動に忙しいって、
何もしてくれなくて、
警察は……、
そこに居るかどうかわからないから
今は……他にやるべきことがあるからって。
必死に瓦礫をのけようとしても、
どうにもならなくて……
ようやく、瓦礫を動かせたときには
晴貴は……冷たくなってた」
一言一言、噛みしめるように
紡がれた成実の記憶。