天使の贈り物 

5.寂しさの果てに




その日……大学に
這い出す元気も出なくて、
そのままズルズルと
ベッドの中で過ごした。




気になる言葉は……
そう。




そーすけさんが呟いた、
『みく』と言う名前。




ねぇ……
『みく』さんって誰ですか?





携帯電話を何度も手にして、
画面を見つめるのに、
その言葉が文字打ちできない。




そーすけさんの寂しそうな
顔が何度も脳裏によぎるから。



グダグダのまま……
起き上がる気力なく、
一日、ベッドの上で過ごした。



途中、お世話になってる
居酒屋の女将さんが、
御粥を作って、
部屋に持って来てくれたけど
そのお粥すら、
喉を通過させるのに
精いっぱいだった。




家族の名前を綴った
フォトフレームをじっくりと見つめる。





……ごめんね……。


お父さん、お母さん……
それにお兄ちゃん。


皆の分も、
一生懸命生きるって
決めたのにね。


うまく行かないね……。



あの時、私も一緒に連れていってくれてたら
今頃、こんなに苦しまなくても良かったのかな?



そんなこと言っちゃダメ。


生きたくても
生きられなかった人がいるんだから。



頭ではわかってる。


でも心は……ついていかないんだよ。


私じゃなくて、
私以外の誰かが、
生きてれば良かったのかも知れない。


そしたら……もっと、その残された時間を
有効に使えたんじゃないかな?




あの時、助かったのが……
私じゃなくて、晴貴さんだったら……
今頃、そーすけさんは……バンドでデビューして
もっともっと笑顔に慣れてたかも知れないよね。


こんな寂しげな表情を浮かべて
寂しそうに、
お酒を飲むこともなかったんじゃないかなって
そんな風にすら、思っちゃう。




それは……自分自身が
今、生きていることに負い目があるから……。





この罪悪感だけは……
拭おうとしても、拭いきれないよ。



< 27 / 178 >

この作品をシェア

pagetop