天使の贈り物
その日のその場所は……
何時もと違っていた。
一か月に一度の、生音の日らしくて
電子ドラムや、ギター、ベースが並んで
お客さんのリクエスト曲を、
店内の人たちが、入れ替わり立ち代わりに
楽器を手にして演奏しながら過ごしてた。
演奏している中には……
そーすけさんと同じバンドメンバーだった
悠生さん、煌太さん、翔琉さんたちの姿を確認できた。
「あっ、奏介。彩巴、遅いじゃん。
こっちこっち」
手をブンブン振りながら、
成実は私たちをテーブルへと招き入れた。
成実の元に近づいていく私。
店内の片隅、カウンターの椅子に座って
独り、アイスコーヒーを飲みだす
そーすけさん。
やっぱり……
そんな、そーすけさんの表情が気になって
私は……成実の隣から離れて、
そーすけさんの隣の席に座って、
いつものようにレスカを飲み始めた。
店内は……
いろんなジャンルの音楽に溢れていた。
お酒が入った人が歌う場合もあるから
決して、お世辞にもうまいとは
言い難い歌声が響き渡る。
「ねぇー。
悠生、煌太、翔琉。
あの曲、やってよ。
『傷』。
私……歌うからさ。
ほらっ、
奏介アンタも演奏してよ」
成実が椅子から立ち上がって、
そう言うと、ギターを一本手にして
そーすけさんの手に握らせようとする。
そのギターに触れることを拒否して、
前……一度見たときのように、
震えだした右手を、
左手で隠すように覆った。
「……悪い……」
そのまま、俯いて
何かに耐えるように
唇を噛みしめ
続けるそーすけさん。
そんなそーすけさんを、
守りたくて……
助けたくて、
自分の胸の中に、
抱き寄せた。
黙って……体を預ける、
そーすけさんは、
何だか泣いているみたいに思えて
柔らかい、その髪を何度も何度も
撫でながら……過ごした。