天使の贈り物 

10.傷



約束のプレギエーラが始まる日。

私は、いつものように
そーすけさんが
迎えに来てくれるのを待ち合わせ場所で待った。


いつもは峠の上までしかいかない、
あの道を今日は降って、住み慣れた
懐かしいあの町に踏み入れる。



懐かしいけど……
苦しくて悲しい思い出が今は強くなってしまった
大切な故郷。



お洒落をしていく気にもならず、
カジュアルな装いの
パンツルックで準備した。


正直……今の自分があの場所に踏み入れた後、
どうなるかなんてわからない恐怖も付きまとう。



だけど……
いつかは向き合いたい場所だから。



そして……今は、
そーすけさんが隣に居てくれるから。



待ち合わせの時間、
いつものようにハザードをつけて
車を寄せた、そーすけさんが、
私を車内へと招き入れた。



いつものと同じ景色。




だけど……、私も……怖いけれど、
多分、そーすけさん自身も怖いのか
車内の空気は凄く重たかった。




「そーすけさん……
 私、行きたいところがあるんです」



行きたいところは……
家族が暮らした自宅があった場所。


そして……私の両親が、
生きたまま骨になった場所。

その最後を見届けることも出来ないまま
救出された私は病院へと運ばれた。

それ以来、一度も帰ることなく
今に至るから……、一度でいい。

一瞬でいいから、
その場所に帰りたかった。


帰るって言うのも違うのかな。
私の中のケジメ。


だけど……一人では帰る勇気も
持てそうにないから……
同じ痛みを知ってる、
そーすけさんに立ち会ってもらいたいって思った。


その場所に……
今も両親の魂は残ってる気がしたから。

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