天使の贈り物 




「うん、いいよ。
 俺も付き合ってほしいところがあるから。
俺のこと、今日話すって約束したしね」



車は走りなれた
悠生さんのお店までの道のりを走り抜けて
そのまま峠を降っていった。



あの日からもうすぐ一年。


変わり果てた街並みは、
ゆっくりと動きだしてるんだろうけど……
知らない場所に見えた。



車は復旧した
駅近くの駐車場へと吸い込まれていく。  

車を預けた後は、
見慣れない景色を辿りながら、
時折懐かしい目印を視界にとめては立ち止まり、
瞼を閉じて懐かしい建物を思い出す。

そんなことを繰り返しながら、
歩道を歩いて、
商店街を歩きはじめる。



どれだけ悲しい出来事があっても、
生きてる人が居る限り
遺された人がゆっくりと
前に進んでる。



私の心があの時間が動けなかった
その間も……この場所では、
逃げなかった人たちが、
必死に前を見据えて歩き続けてた。



そんな人の強さに力を貰いながら
懐かしい……場所を目指す。


その時、商店街の脇。
細い路地の前で、そーすけさんの足が止まった。


路地の向こう側、
小さな建物が姿を見せる。



「行く?」


そーすけさんを見上げて、
ゆっくりと問い直すと、震える唇は
キツク閉ざされて、ゆっくりと一歩を踏み出した。

その場所へと、
私もゆっくりとついていく。




狭い路地の向こう、小さな建物の壁際には

「LIVEハウス」の文字。


読み取れるのは、そこまでで……
今は、開業していないのか
その先の文字は読み取れなかった。


その建物の前、
そーすけさんは座り込んで
何かを見つめる。
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