天使の贈り物
街の中にパイプオルガンの哀愁を忍ばせる
音色が響いて、
一気に空気が神聖なものへと変わっていく気がする。
厳かな祈りに包まれた時間。
光のアーチが、ゆっくりと点灯して
その道を歩いていく。
優しい色使いで、演出された
祈り世界は、その道の先で幻想さを増した。
真っ暗な中で、
うっすらと灯された灯りは
暗闇の中の希望そのもの?
はしゃぐことも出来ず、
その空間の中に身を委ねるように
ボーっとイルミネーションを見上げながら
ベンチへと腰掛けた。
私の隣、そーすけさんも
言葉を紡がないままに、
目の前の光の世界に視線を向けていた。
「私……あの場所で育ったの。
もう何もなくなってたけど……。
だけど……あの日、家が潰れて
私とお兄ちゃんは助けられたの。
……お父さんと……お母さんは……
あの場所で生きたまま焼かれたって。
焼け跡で、骨を拾ってくれた近所の人が
探してくれて持って来てくれた。
私とお兄ちゃんを助けてくれた人なの……」
一言一言、紡ぎだすたびに
涙がこぼれて止まらなくなる。
「だけど……そんなお兄ちゃんも、
助からなった。
瓦礫の下から救い出されて
助かったって思ってたお兄ちゃんは、
クラッシュ症候群で命を落とした。
透析が受けられなくて……」
ずっと黙ったまま私の話を聞いてくれてた
そーすけさんが、
次の瞬間凍りついた気がした。
「そーすけさん?」
思った通り、彼の手は震えだして
小刻みに痙攣してる。
「ごめん。
そーすけさん……」
どうにかして彼の発作をしずめたくて
手を掴み取る。
冷たくなった指先。
その彼の手を、優しくさすりながら
マッサージをするように、
硬直した掌をほぐしていく。
そんな時間を過ごして、
ゆっくりと言葉を紡ぎだした。
「クラッシュ症候群。
美空(みく)もそうだった。
助け出したんだ。
助け出して……病院のベッドで
アイツ、笑ってた。
助けてくれて有難うって。
だけど……逝っちまった……」
そう紡ぐと、また唇を閉ざして
夜空を仰ぐように天を見上げた。
そんな二人の寂しさに、
寄り添うようにパイプオルガンの音色は
響き渡る。