春に想われ 秋を愛した夏
プロローグ
―――― プロローグ ――――
それは、悔しいほどに忘れられないキスだった。
「悪い。香夏子のそばには、いられない」
彼はそう言って、告白した私の気持ちを突き放した。
なのに、涙を流して去ろうとする私の手を引き、彼は唇をうばったんだ。
そばにいられないと、いいながら――――。
愛する事のできない私へくれた彼のキスは、強引なのに優しくて涙の味がした。
苦しくて、切ないキスの味。
私は今も、その味にしがみついたまま、心は立ち止まっている。
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