春に想われ 秋を愛した夏


「ああ、お腹空いた」

メニューを見ながら食べ物を見ていると、スーパーくらい行きなさいよ。なんて言われる。

「塔子もね」

お互い様の日常に笑い合い、メニューから適当に何品か注文をした。

料理が出てくるまでの間、塔子が頼んだ枝豆をつまみに冷えたビールで喉を潤す。

「ああーっ。おいしっ」

炭酸にぎゅっと顔を歪ませてそう吐き出すと、おっさんだね。なんて、同じようにビールを飲んで息を吐き出す姿に、一緒じゃん。とまた笑いあう。

こんな風に気兼ねなく笑いあえる友達は、大人になればなるほどできなくなっていく。
自分のことをそのまま曝け出す勇気は、大人になるほどなくなっていくからだ。

曝け出した先に待っているのは、もしかしたら裏切りかもしれない。
裏切られるのは、恐い。

年を重ねれば重ねるほどに弱っていく精神は、そんな恐怖をなるべく避けようと、上辺の付き合いばかりをさせてしまう。

もっと素直に生きられたら、どんなにか楽だろう。

そう思うのにできない大人というのは、本当に不憫だと思う。


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