春に想われ 秋を愛した夏
日本酒の代わりに美味しいお茶を頂きながら、大きな口でパクパクと食べていると、気取ってなくていいな。と新井君に笑われた。
「それにしても、隣で溜息つきすぎだそ。男にでもふられたか?」
デリカシーの欠片もない質問に、三年前にね。とは言えず取りあえず頷いておいた。
「失恋なんてな、新しい男でも作ればすぐに忘れられるさ。女は特にそうなんだろう? 男はわりと未練タラタラだけど、女は次の恋が始まれば、綺麗さっぱりだってよく聞くけどな」
「みんながみんな、そういうわけでもないよ。そういう新井君は、最近どうなの?」
「ん?」
「彼女」
「ああ、半年前に別れてから、忘れられなくて未練タラタラだよ」
自分の言ったセリフに重ねて、失恋したことを笑い話にしてくれる。
こういうところは、優しいよね。
「ありがと。ここにも未練タラタラな人がいるのかと思うと、ちょっと救われた」
「一緒にすんなよ」
憎まれ口を叩き、声を上げて笑う。
こうやって笑っていよう。
秋斗とは関係のないところで、関係のない話をして、声を上げて笑っていれば、余計な事など考えなくて済む。
今までと同じように、塔子と居酒屋でいい男はいないかってニヤニヤしてみたり。
ミサと、社食に文句を言ったり。
時々、新井君にランチを奢ってもらったり。
美味しいお酒に、幸せを感じていればいい。
仕事もバリバリやるんだ。
「ありがと、新井君」
「ん? あ、今日のはランチは特別だぞ。何度もこんな昼飯は奢れないからな」
必死に釘を刺すようにして言う新井君に涙交じりの笑顔で頷きながら、私は心からこの同僚に感謝した。