春に想われ 秋を愛した夏
春斗が連れて行ってくれたのは、青山にある少しおしゃれな創作料理のお店で、大きなビルの八階にあった。
「ここの牛タンは、さっぱりしていて美味しいんだよ。きっと、香夏子も気に入ると思う」
昇るエレベーターの中で嬉しそうに料理の話をする春斗は、なんだか子供みたいでこっちまで笑顔になってしまう。
店内に入り、席に案内されて着くと、まずビールを頼み、おつかれー。とグラスをあわせた。
「おいしぃー」
「口に泡がついてるよ」
私の口元を見て春斗が笑う。
「ちょっと行儀が悪かったね」
お絞りで口元を押さえると、大丈夫。見慣れてるから。と更に笑われた。
メニューを渡され、好きなもの頼んで、と言われたけれど、久しぶりのビールが美味しくて料理の選択を春斗に丸投げし、私は出てくるものをひたすらアルコールとともに堪能していった。
春斗に勧められた牛タンは、おろしポン酢で頂く物で、確かにとてもさっぱりしていて、お肉はまだちょっと遠慮したいな。と思っていたのに箸がどんどん進んだ。
「ほんとに美味しいね。ビールにもよくあう」
気に入ってもらえてよかった。と春斗も珍しくアルコールが進んでいるみたいだった。
「こんなに美味しいなら、塔子も誘ってあげたらよかったね」
「そうだね。けど、今日は、香夏子と二人がよかったから」
サラリと言われた言葉を聞き流しそうになったけれど、思わず、え? なんて顔を目の前の春斗に向けてしまった。
間の抜けたわ私の顔を見て、春斗が優しく微笑んだ。
春斗には珍しく、今日はいつもにないほど饒舌で、塾のことや一人暮らしのことを色々聞かせてくれた。
すべらかに笑顔で話す春斗はとても陽気で、こんなにおしゃべりな春斗を見られるなんて、ちょっとレアかもしれない、なんて得した気分になる。
塔子に会ったら自慢しよう。