春に想われ 秋を愛した夏
タクシーは渋滞にはまることなく、スムーズに私たちの住む町へとたどり着く。
自宅マンション前につき、私が降りるとそれに続いて春斗も降りた。
「このまま春斗の家まで乗っていったほうがいいんじゃない?」
酔っている春斗を気遣ったら、もうすこし一緒に居たい。といわれて、また心臓が反応した。
こんな春斗は、珍しい。
ううん。
違うかな。
久しぶりに逢ってからの春斗からは、時々感じていたことだった。
言葉にはっきりと出したわけではないけれど、薄々は感じていた彼の想いに、さすがの私も気づき始めていた。
「少し、お邪魔してもいいかな。聞いてもらいたいことがあるんだ」
真面目なのはずっと昔からのことだけれど、今日の春斗はそれに僅かな緊張感も窺えた。
その緊張が私にも伝染してくるようで、躊躇いのあとで返した肯定の応えが震えた気がした。
「お邪魔します」
心持緊張した様子の春斗が、遠慮がちに部屋へと上がる。
「適当に座って。コーヒーでいい?」
春斗の緊張が伝染した私は、灯りをつけてそわそわとキッチンへ行き、薬缶に火をかけるのだけれど、たったそれだけの流れをスムーズに行えず、余裕もなくガチャガチャと無駄に音を立ててしまった。
仕舞には、棚からカップを出す時に豪快にぶつけてしまい、割れはしなかったものの大きな音を聞きつけた春斗が、驚いたように座ったばかりのソファから立ち上がる。
「大丈夫!? 僕がやろうか?」
「あっ、ごめん。大丈夫だから、座ってて」
苦笑いで春斗を制して、気づかれないように深呼吸をした。
高校生でもあるまいし、何を動揺しているんだか。
塔子じゃないけれど、とんとご無沙汰な緊張感に、何を慌てているのか、と自分で自分が可笑しくなってしまう。