春に想われ 秋を愛した夏


不意に、キッチンで塔子と仲良く新婚さんのようにしていた二人の姿を思い出し、春斗がキッチンへ来たら自分も同じような感じになるのだろうか。と想像してなんだかくすぐったくなった。

カップ二杯分だけ入れたお湯はすぐに沸き、薬缶がシューと騒ぎ出す。

「インスタントなの。ごめんね」

粉にお湯を注いだだけのコーヒー。
そのカップを持ってテーブルへ行くと、そんなことなど気にしない。とでもいうように春斗がありがとう。と微笑む。

コトリと置いたマグカップへ春斗がすぐに手をのばし、まだ熱いのに口をつけた。

「熱くない?」

猫舌の私が訊くと、平気だよ。と笑う。
その笑顔を見て思う。

春斗は、いつだって穏やかに微笑を浮かべている。
どんなに不安なことがあっても、どんなに慌てるようなことが起きても。
春斗がそばで大丈夫。と笑顔でいてくれると、私はほっとすることができた。

塔子も言っていたけれど、春斗には癒しの力がある。
いつだって私を安心させてくれていた。

大学の時、授業の内容が難しくて困っていた時も。
就職活動で、なかなか決まらない仕事に不安を抱えていた時も。
春斗が笑ってくれていれば大丈夫。だと思えた。

そういう安心感や春斗のくれる優しさが、今の私には必要なんじゃないだろうか。

振り回されてクタクタになるような恋愛をするパワーは、もうない。
安心していられる存在に、寄り添っていたい。


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