春に想われ 秋を愛した夏


大学生の頃は、いつも遠慮がちで気を遣ってばかりいた春斗だけれど、今目の前にいる彼は男らしくて少しばかり強引で頼りがいもある。
そしてその強引さは少しも嫌じゃなく、寧ろ好ましく感じている。

偶然にも久しぶりに逢った春斗の態度から、ああ、春斗は私のことを想ってくれているんだ。と会う度に心の片隅では気づいていた。

躊躇いもなく私の隣に座ることや、囁くように私にだけ聞こえるように耳元で話すこと。
昔よりも強引で、昔と変わらない優しい春斗。
それは、好きな人に少しでも近づきたくて、そばにいることを望んでいたあの頃の私に似ているようにも思う。

秋斗にふられてからずっと、私には好きな人もできずに今まで秋斗の陰に縛られ続けてきた。
何かにつけては秋斗を思い出し、悲しくなったり寂しくなったり、恋しくなったり……。
そんな感情に惑わされ続けていても、その先の未来などないのは解っている。

だったら、新しい一歩を踏み出すのもいいじゃない。
殻に閉じこもって一人でいることに開き直ってしまうのは簡単だけれど、別の誰かをもう一度愛してみるのもいいじゃない。

秋斗への想いをすっかり断ち切って、春斗に愛されるなら、私は幸せになれる気がする。

新井君だっていっていた。
新しい恋を始めるのがいいって。

「香夏子」

カップを握る私の手に、春斗が優しく手を重ねる。
あまりに穏やかな春斗の声が、私の心をトクンとひとつ弾ませた。

「ずっと。ずっと。言えなかった」

緊張した春斗の声。
私は、握られた手の暖かさを感じながら、次の言葉を待った。


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