春に想われ 秋を愛した夏
「大学の時からずっと香夏子のそばにいたのに、僕にはその時勇気がなくて、ずっと言えずにいたんだ。離れてしまってからも、香夏子のことを思い出さないなんてことなかった。そして、もう一度会うことができて、確信したんだ。僕、香夏子が好きだよ」
優しい眼差しで見つめられると、ふわりと柔らかなベールにでも包まれたように気持ちが凪いでいく。
こんなに穏やかな気持ちになったのは、初めてかもしれない。
春斗と一緒に居たら、きっとこんな気持ちのままずっといられるのだろう。
秋斗といるときみたいにギスギスとした感情に、自分自身で嫌気がさすようなこともない。
辛いと涙を流すこともきっとない。
春斗と一緒なら――――。
迷うことなどない、と思った。
僅かに過ぎる春斗と似た顔さえすぐに消し去って、私は春斗を見つめたまま頷きを返した。
それと同時に、春斗が私を引き寄せる。
抱きしめられた腕の中で、ずっとこうしたかった。と優しく呟いたあと、ゆっくりと離れて目を見つめられた。
向けられた春斗の想いに、私はゆっくりと目を閉じる。
僅かあとに、春斗の唇が私の唇と重なった。
躊躇いは、少しもなかった。
暖かな春斗の唇を受け入れながら、人に想われることの心地よさに浸っていた。
誰かが言っていた。
女は想うよりも、想われている方が幸せだと。
春斗のことをそういう目で見たことはなかったけれど、想われるということはこういうことなんだろう、と重なる唇から感じる。
惜しむように離れていく温もりに、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
「香夏子」
もう一度、囁かれるように呼ばれる自分の名前のあと、春斗はまた私を抱きしめた。
「香夏子、好きだよ。ずっと僕のそばにいて」
まるで願うような愛の告白に、私はもう一度頷きを返した――――。