春に想われ 秋を愛した夏
「野上さん。香夏子は悪くなくて、僕が急に――――」
「はいはい。愛する人を庇いたいのはよーくわかるよ、春斗君。しかし、私は香夏子に言いたいっ」
「な、なに……?」
塔子の勢いに気圧されながら、春斗は隣でオドオドしている。
「私だけ独り身なんて、納得できなーーーい」
店内の人が振り向くほどの声で叫ぶと、今日はおごりなさいよね。と前のめりで催促されて、私たちは二つ返事で頷いた。
人のおごりだと思ってか、塔子はガンガンビールを空けていく。
ついでに、つまみの料理も豪勢なほどテーブルに並んでいた。
「こんなに食べきれるの?」
呆れて笑うと、香夏子が食べるのよ。なんて言われて驚いた。
「また倒れられたら、私が困る。居酒屋で一人晩酌なんて、そうそうなん日も続けられないんだからね」
しっかり食べなさいよ。と優しく諭され、胸が熱くなった。
なんだかんだ言っても、塔子はいつだってこうやって心配してくれる。
そんな友達を持った私は、幸せ者だ。
「そうそう、春斗君も。香夏子の彼になったからって、独り占めにしないでよ。私の香夏子でもあるんだからね」
塔子がイタズラに笑って言うと、解りました。と背筋を伸ばして真面目に返事をしている。
そんな春斗の生真面目さに、私たちは思わず笑ってしまった。
しばらくそんな感じの会話を続けていたところへ、携帯に電話のかかってきた春斗が席をはずした。
「ちょっとごめん」
ガヤガヤとしている店内を出て、外へと向かう。
春斗がお店の外に出るのを確認してから、塔子が呟くように話し始めた。