春に想われ 秋を愛した夏
「その後、秋斗君とは?」
今度は、首を横に振った。
あの日、止めようとする秋斗を振り切って逃げ出してから再び逢うことはなかった。
できるなら、このままずっと逢わずにいたい。
秋斗に逢ってしまったら、気持ちを振り回されそうで恐いんだ。
今の私には、春斗がいる。
二人の間にそんな秋斗という存在は、必要ない。
「とにかく今は、逢いたくないかな……」
店内の騒がしさとは対照的に、ここのテーブルだけがしんみりとした空気を漂わせている。
私の力ない言葉がテーブルの上にこぼれて、量を増していくようだ。
塔子がグラスを持ち上げて、テーブルに置かれた私のグラスにカチリと合わせる。
「春斗君に、愛されなさい。たくさんたくさん、愛してもらいなさい」
塔子は、優しく見守るような顔をする。
うん。と私が頷きを返したところで春斗が戻ってきた。
「ごめん、ごめん」
謝りながら腰掛ける何も知らない春斗に向かって、塔子がさっきまでの雰囲気を変えるようにおちゃらけて意地悪なことを言いだした。
「電話の相手、早速の浮気じゃないでしょーね」
ねっとりとした目でわざと見る塔子に、春斗が慌てる。
「ち、違うよっ。女の人なんかじゃないよっ。講師仲間だからね、ほんとにホントっ」
何故だか私に向かって一生懸命にいい訳をする春斗がおかしくって、塔子と二人で笑いあった。