春に想われ 秋を愛した夏
「野上さんには、参ったなぁ」
送ってもらう帰り道、居酒屋での塔子の意地悪に、苦笑いを零しながら春斗が笑う。
「塔子は、私の元彼みたいなものだからね」
得意気になって、私もちょっと意地悪をしてみた。
「じゃあ、もしも香夏子を泣かすようなことにでもなったら……」
「塔子は、絶対に黙ってないよ。うん」
確信を持って頷くと、うわ~っ。なんてわざとらしく慌ててみせる。
「けど、春斗が私を泣かせるなんて、想像できないよ」
秋斗でもあるまいし。と続けそうになり、慌ててその言葉を飲み込んだ。
もしも泣かせるとしたら、こんな風に秋斗のことを引き合いに出して考えてしまう私のほうだろう。
秋斗という存在を否定しながらも、なかなか心の中から消し去れない私は、いつかこの想いから解き放たれるのだろうか。
他力本願といわれるかもしれないけど、春斗に忘れさせて欲しいと願う。
私の中を、春斗だけで埋め尽くして欲しいと。
「今日は、久しぶりに三人で集まれて楽しかったね。塔子の勢いに、私までちょっと飲みすぎちゃったかも」
楽しく飲んでいた時間を思い出して笑みが漏れる。
「野上さん。ここぞとばかりに飲んでたからね」
さっきまでの様子を思い出したようにして、春斗も笑っている。