春に想われ 秋を愛した夏
そのラインに春斗がそっと触れた後、もう一度傷口に唇をあてた。
「もう、こんな傷。つけさせたりしないからね。いつだって、僕が香夏子のそばにいるから」
見つめられ、放たれた言葉が嬉しくて顔が熱い。
私は、照れくささに小さく頷き、薬缶に二杯分の水を入れてコンロにかけた。
そのそばで、春斗が棚からカップを出してそばにおいてくれる。
「ありがと」
照れくささの残るまま目を見て言うと、カップから離れた手が私へと伸びて抱き寄せられた。
すぐに重なる唇は啄むように何度も触れて、角度を変えては深くなる。
優しくて、少し強引なキス。
離れては見つめあい、そしてまた重なり、何度も何度も触れる唇。
少しでも離れてしまうことが惜しいとでも言うように、春斗は私を放してくれない。
髪を梳くようにかき上げ、耳を甘噛みされれば、心がとろけそうになる。
そんな甘い時間に浸っていると、お湯の沸く音が豪快に邪魔をしてきてた。
見つめ合ってクスリと笑いあってから、カップにお湯を注いぐ。
深夜独特の静けさの中、春斗と二人でここにこうしていることが、なんだかとても不思議だった。
大学の時は、こういう時に必ず塔子もいて、そして秋斗もいた。
春斗と二人だけで過ごす夜が来るなんて、想像もしたこともなかった。
僅かな緊張と、甘く優しい時間。
時々見つめあっては軽くキスをして、コツンと頭を寄せ合う。
会社でミサの同棲話にお腹がいっぱいなんて思ったけれど、今ならこんな幸せな気持ちを誰かに訊いてもらいたいって思うのも頷けた。