春に想われ 秋を愛した夏
結局、春斗の働いている場所を見たくて、塾の近くの定食屋へ行くことにした。
「本当に、ここでいいの?」
年期の入った暖簾のかかる、昔ながらの定食屋の前で立ち止まり、少しもしゃれていないけれど本当に大丈夫? と春斗が訊ねる。
「でも、こういうところのご飯って、結構美味しいんだよね」
「よく知ってるね」
「私も会社近くの定食屋さんをたまに利用するから」
「へぇ、香夏子が定食屋?」
「私ってどんなイメージ?」
「おしゃれなカフェとか、イタリアン」
春斗は、ここぞとばかりに言い返して笑っている。
暖簾をくぐり、テーブル席に腰掛けた。
値段は安いのにボリューム満点の定食は、ご飯の量がはんぱない。
「食べきれないかも……」
春斗にこっそり言うと、自分のご飯茶碗に私のご飯を取り分けてくれた。
ガリガリというわけではないけれど、少しも太っていない春斗がそんなにたくさん食べられるだろうか。と不安な目を向けると、それを悟ったように、大丈夫と頷いている。
「結構前から午前中はジムに通ってて、学生の頃より食べるようになったんだよね」
空いている時間を有効活用して、週に何度かジム通いをしているらしい。
どうりで、引き締まった体をしていると思った。
昨夜の春斗の体を思い出すと、ベッドでのことも思い出してしまい、顔が熱くなり慌てて下を向く。
「どしたの?」
真っ赤な顔をして俯く私に、目の前の春斗は不思議顔。
私はなんでもないと首をふり、赤い顔のまま定食に箸をつけた。