春に想われ 秋を愛した夏
「いってらっしゃい」
塾の少し手前で手を振ると、なんかこういうの、いいな。なんて春斗が照れ笑いを浮かべる。
その幸せそうな微笑は、私にも幸せを伝染させてくれる。
「頑張ってね」
右手を軽く上げ、塾へと名残惜しそうに消えて行く姿を見送って、さてこれからどうしようかな。なんて思う。
水分補給にお茶でもしよっかな。
カフェのコーヒーが水分補給となるのかは怪しいところだけれど、この暑さからとりあえず逃げたくて、春斗の働くこの町を散策しながらどこかよさげなカフェがないか探すことにした。
大きなアーケードのある商店街は賑わっていて、週末のせいかな。とも思ったけれどこの街自体の人気もあるんだろうなと思った。
ファーストフードのチェーン店も充実しているし、おしゃれな服屋さんも多い。
おばちゃまたちが喜びそうな、惣菜店やお茶屋さんもあって。
ラーメン屋さんにゲームセンターもある。
そんな町並みを眺めて歩きながら、春斗はこの町で働いているんだ。と一人感慨深く感じていた。
ぷらぷらと歩いていると、少ししておしゃれなカフェが見つかり店内に入った。
白のウッドデッキのある、明るい店内。
観葉植物の綺麗な緑が目に眩しい。
席に案内されると店名がシンプルに書かれた白いTシャツのお姉さんが、素敵な笑顔で注文を聞きに来る。
私が男だったら、連絡先を訊ねたくなりそうなスマイルだ。
メニューを見ながら冷たいラテを頼もうとしたけれど、少し考えて冷たいものばかりだと体が疲れるかな、とあったかいラテにした。
幸い、店内はクーラーがよく効いている。
氷の入ったレモン水のお冷で体内にたまった外からの暑さを逃がし、スマホにダウンロードしてある小説を開いてテーブルに届いたあったかなラテを飲みながらのんびりとした時間を過ごした。
時々道行く人たちに視線をやれば、休日の午後を楽しむ姿が目に映る。
友達同士や家族。
顔を見合わせ微笑みあう恋人たち。
さっきまでの私たちも、あんなふうに幸せそうに歩いていたんだろうな。