春に想われ 秋を愛した夏
春斗は、今頃学生たちに教鞭をふるっているのかな。
それとも休憩時間?
メールでもしてみようかと思ったけれど、授業の邪魔をしちゃいけないかな、とやめにした。
そういえば、秋斗には大学の講義中によくメールが来ていたな。
誰からのメールなのか、私はいつも気になって仕方がなかった。
先生に見つからないようにこっそりと返信している姿に、何度やきもちを焼いたことだろう。
一度だけ勇気を振り絞って、誰から? なんて、特に気にしている素振りもない風を装って訊いたのに、友達。と一言で済まされたっけ。
まぁ、彼女でもないのだから、当然といえば当然のことか。
その頃のことを思い出し、自然と嘆息してしまう。
そうやって、気がつけばラテ一杯で一時間以上を過ごしていた。
入口付近に目をやれば、待っている人が何組かいて、自分はちょっと迷惑なお客だ。と肩をすくめて席を立つ。
外に出ると、まだまだ日は高く、暑さがまとわりついてきた。
商店街のお店を見ていくのもいいかな、と最初は思ったけれど、暑さに負けて、逃げ込むように最寄り駅へ向かう電車に乗りこむ。
たった駅までの数分の間歩いただけで、さっきカフェで摂った水分が、あっという間に汗になって出てくる。
席に座って流れゆく景気を見ていると、汗が引いたころに自宅の最寄り駅が近づいてきた。
ハンカチ片手に電車を降りて、スーパーへと寄り道をする。
食材を買うわけでもなく、すぐにアルコールの売り場へ足を向ける。
家の冷蔵庫の中で残り少なくなっている缶ビールの数を頭の中で思い出し、張り切って六缶パックを二つも買い込んだ。
「欲張りすぎたかな」
籠の重さに苦笑いを浮かべても、この暑さにビールは絶対に譲れない。
春斗がいたら、笑われるんだろうな。
そうだ。
録画したまま観ていない、深夜にやっていた映画があったはず。
ビールのお供を思い出し、楽しみになってちょっとニヤついてしまった。