春に想われ 秋を愛した夏
「伝説の親子丼とかいうの知ってる?」
「え? なにそれ?」
ミサの歩くのに任せていると、雑誌にも何度か載ったことのある有名な親子丼を出す店があるというのでそこへ向かうことにした。
店の前に着いてすぐ、丁度一組のお客が出たおかげて店内に入ることができた。
案内された席に座ると、お絞りで手を拭きながら今更ミサが訊いてくる。
「がっつり系だけど、平気?」
夏場は食欲不振に悩まされていたけれど、気温も落着いてきたこの頃は、食欲も元に戻っていた。
いや、寧ろ食欲の秋。という感じになってきているかもしれない。
「大丈夫」
にっこり満面の笑顔で頷くと、じゃあ、大盛りで。なんて真顔でいうものだから、さすがにそれはっ。と慌ててとめた。
出てきた親子丼は、漆塗りの綺麗な器に入れられ、卵が黄金に輝いている。
鳥肉は一度炭火で焼かれていて、とても香ばしくジューシーだった。
「おいしっ」
器と揃いの漆塗りのスプーンですくい一口食べて感想をもらすと、だよねぇ。なんて、得意気なミサは次々口に運んでいった。
「そういえばさ。その後、同棲は順調なの?」
始めた当初ラヴラヴだったのは聞いていたけれど、それは今でも継続中なのだろうか?
「うーん。相変わらずといえば、相変わらずかな。それなりに仲良くやってるよ」
「それなりって、なんか前ほどラヴラヴじゃない感じ? なんかあった?」
「そうだねぇ。やっぱさ、人って慣れるじゃない。一緒に居ることにも、徐々に慣れていくのよね。だから、仲は良いけど、前ほどじゃないかなって。まあ、ラヴラヴはラヴラヴだけどね」
ミサは、最後の一口をすくって口に入れると、しっかり咀嚼してスプーンを置いた。