春に想われ 秋を愛した夏
そういえば、同棲をするかどうか相談してきた時に、新鮮味がなくなる。と言っていたのを思い出した。
「なんていうか、そのラブラブ度が一定で保たれてる感じで、前みたいにメーター振り切るくらい、好きーーーっ。ていう風にはならないかな」
でも、悪くはないよ。と語尾につけたし、安定感のある恋愛だとミサが言う。
そうか。
新鮮味が薄らいでいくと、安定感へと変わっていくのね。
「香夏子は、彼氏ができたんでしょ。同棲とかいう話は出ないの?」
「えっ! まだ付き合って一ヶ月だよ。同棲なんて、早いでしょ」
笑って否定すると、同棲に早いも遅いもあるの? と切替されて、思わずなるほどなんて納得してしまう。
「付き合って三年だろうが、一週間だろうが。同棲する人はしちゃうよ」
出てきた食後の温かいほうじ茶をふうふうしながら、ミサがそんな風にいう。
確かにそうかもしれない。
「まぁ。同棲が絶対良いていうわけでもないから、必ずしもしたほうがいい。とは言わないけどね」
「あれ? やっぱ、なんかあった?」
湯のみ茶碗を口元へ持っていったままのミサの顔を覗き込むと、少しの間逡巡してから口を開いた。
「うーん。実は、少し前にね、ちょっとした喧嘩をしちゃって。まぁ、些細なことなんだけど」
ミサは肩を竦めながら、少し俯いてしまう。
「一緒に住んじゃうと、逃げ場がないのがちょっときついかなって、その時思ったから」
喧嘩かー。
そうだよね。
一緒に住んでて喧嘩して、家でも飛び出しちゃったら、何処へ行く? てことになっちゃうのか。
私の場合は、きっと塔子の家に逃げ込むんだろうなぁ。
そこまで考えて、そもそも春斗と喧嘩しているところを想像できないな、と笑ってしまった。
「ちょっとー。何、ニヤニヤしてんのー?」
冷めたほうじ茶を飲んで、ミサがたずねる。
「んー。今の彼と喧嘩してるところが、少しも想像できないかもって思ったら、ついね」
「あー、はいはい。ご馳走様です」
空になった湯のみ茶碗を置くと、お腹いっぱいです。といつかの仕返しのように言われてしまった。