春に想われ 秋を愛した夏


親子丼で本当にお腹一杯になり社に戻ると、課長からの仕事が増えていて焦ってしまった。

「なに、これ? 課長、今日中って言ってた?」

山積みの仕事依頼に目を丸くして隣の新井君に訊くと、無言で頷いて、ご愁傷様です、と手を合わせられた。

満腹感に浸る暇もなく、私は仕事を片付け始める。
ちょっと休憩、といつもなら休憩室にあるコーヒーを飲んでもいい頃になっても、そんな余裕すらなく仕事に追われた。

しばらくして、あー。とか、うーとか。言いながらカタカタとキーボードを打っていると、目の前に湯気の上がるコーヒーカップが置かれ、その手の先を見ると気を利かせてくれた新井君が居た。

「ありがとう」
「なんか、手伝うか?」
「いいよ。新井君も急ぎのがあるでしょ」

朝から忙しそうにしていた新井君だけに、気軽に、お願い。とはいえない。

「悪いな」
「ううん」

本当に悪そうに眉根を下げるもんだから、こっちの気が引けてくる。


就業時間が近づいてきた頃、気を遣って新井君が進み具合を訊いてきた。

「間に合いそうか?」
「うん、大丈夫そう。ちょっと残業にはなるけど、いけるでしょ」

「さすがだな。けど、そうやって頼まれたことをしっかりるから、余計に仕事が増えるんじゃねぇーの?」
「でも、急ぎって言われたら、やらないわけには……」

「大きい声じゃ言えないけど、たまには手抜きしないと、きりがないぞ」

新井君が、少し離れた席に座る課長を気にしつつイタズラに笑う。

「アドバイス、ありがたく受けとっておきます」

帰って行く新井君をお疲れさまー。と見送って、あと少しで終わりそうだと更にスピードを上げた。



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